高レベル核処分場誘致を考える 交付金より情報公開 |
毎日新聞・長崎版 2007年3月2日(金)の記事 |
原発から出る高レベル放射性廃棄物最終処分場の誘致の動きが全国で起きている。1月には高知県東洋町が町長の判断で原子力発電環境整備機構(原環機構、NUMO)に全国で初めて応募したものの、周辺全自治体や町議会の反発を招き、辞職勧告決議に至っている。誘致に向けた動きは決して人ごとではなく、県内でも新上五島町、対馬市で進行中だ。02年に前任地・福井でこの施設を知り取材を続けてきたが、反発の背景には安全性を巡る課題の前に、説明責任を果たさず情報公開に後ろ向きの姿勢を取る募集側の問題がある。
■岡山に結集
2月17、18の両日、処分場を巡る動きを抱える各地の住民が一堂に会した初の全国集会が岡山市で開かれた。東洋町など各地からの報告があり、28都道府県から約300人が参加した。
集会では、日本原子力研究開発機構の超深地層研究所(岐阜県瑞浪市)の監視を続ける「放射能のごみはいらない!市民ネット・岐阜」代表の兼松秀代さんが、高レベル廃棄物の地層処分技術を研究開発する同研究所について報告。05年度に地下300メートルまで立て坑を掘り進むはずが、大量の地下水に対応できず06年度で200メートルと大幅に遅れている、と指摘し「30年前から研究し、確立したと言っている技術は実は未確立」と批判した。
兼松さんは、処分場選定調査に関する文書の開示を求める訴訟に勝訴。自治体に無断で地質調査をし、候補地を選定していたことを公表した。文書の中では対馬市も適地とされている。兼松さんは「中越地震の被災地も適地とされていた。地震大国で地層処理は危険」と訴えた。
集会には対馬市、新上五島町の住民も参加した。対馬市からの参加者は「処分場で本当に雇用が増えるのか」と質問。青森県三沢市議で「核燃阻止1万人訴訟」原告団の山田清彦・事務局長は、六ケ所村など原子力施設誘致の経済効果について「地元業者ができる土木作業はほとんどない。反対派が敷地に入るのを防ぐ杭(くい)打ちぐらい。2000人の雇用があり、半数は県内採用だが、給料は低く抑えられ、除染作業など危険な業務に追いやられている」と答えた。
処分場問題がもたらした住民同士の対立に悩む声も聞かれた。会場で私は、かつて取材した珠洲原発(石川県)の反対運動に携わった住職の話を思い出した。建設計画は断念に追い込まれ、電力会社の社員が住職に「お前たちの(対立という)溝は末代まで残るんだ」と捨てぜりふをぶつけたという。計画の成否にかかわらず、機構や行政は地域に負の遺産を残すことを認めない。
■応募だけで…
処分場誘致の魅力は豊富な交付金だ。応募するだけで年2億1000万円の交付金が2年間出る。07年度からは年10億円に増額される。次の概要調査地区に進めば、さらに上限70億円。応募自治体が半額以上、残りが周辺自治体に配分される。06年度からは都道府県に対し、各地域振興計画に25億円の交付金が出ることになった。処分場が立地した場合、年200億円を超える交付金や固定資産税が見込める。
ただし、交付金の使途は医療・福祉・教育文化・スポーツ施設の整備などに限られ、箱モノが中心だ。
◇正式応募後やっと…「公表」渋る原環機構
■水面下では
原環機構による自治体への応募の働きかけは水面下で進む。多額の交付金をPRし、自治体関係者や議員、地元有力者に接触。口コミで賛同者の輪を広げていく。六ケ所村や茨城県東海村への視察にも力を入れる。機構が費用を負担し1人5000〜7000円で参加できるという。
福岡県二丈町では06年7月、福岡市であった地層処分PRシンポジウムに町議数人と収入役ら二十数人が参加。シンポのパネリストとして参加した国の責任者との質疑応答の場を別室で設けた。シンポ後は居酒屋で会費1000円で機構との懇親会付きだった。
誘致は行政主導ではなく、住民から誘致の声を上げる形も登場している。新上五島町ではNPOと機構が連携した活動が続く。
ところが、同機構は誘致活動について「正式に応募した以降は公表するが、応募に至るまでの内々の活動は一切答えられない」と口を閉ざす。06年4月、参院委員会で追及されて機構が後日、出した視察を巡る実績は全国で「延べ11回151人」。対馬と新上五島で100人を超えている実態とはかけ離れた数字だ。
さらに、竹内舜哉・専務理事は同委員会で「私たちの費用で税金ではない」と語った。機構の運営資金は元をたどれば国民が払う公共料金の電気代。交付金は税金だ。機構には公金がかかわっているという感覚が欠落しているのではないか。
■住民参画を
「応募だけで数十億がもらえるらしい。合併せず村が生き残れるかも」
02年秋、05年時の長崎市と同規模で人口800人弱の過疎の山村、福井県和泉村で夢のような話を耳にした。前任地の福井は日本で最も多くの原発を抱えるが、処分場は初耳。同村の隣の大野市に住んでいただけに、人ごとではなかった。村議らの要望で実現した説明会は架空の団体名を使い、40キロ以上離れた福井市内のホテルで極秘に開かれた。機構の提案だった。
国内の高レベル廃棄物は既に膨大にたまっている。原子力への賛否は別にして処分方法を国民全体で考え、知恵を出し合うことが急務だ。処分場が地域振興をもたらすという機構の説明と、「地雷の上で暮らすようなもの」と危険性を訴える反対派の主張は大きく隔たり、戸惑う住民は多い。
原子力関連施設での事故は後を絶たない。電力各社による原発トラブル隠し、発電所データ改ざんなど原子力不信を招く行為はいまだに相次ぐ。
機構は公開の場で住民と対話すべきだ。機構を含めた原子力業界には住民参画の視点が乏しく、徹底した情報公開と説明責任を果たしていない。処分場問題で必要なのは、札束の積み増しではなく広く住民と意見を出し合える信頼関係ではないだろうか。
◇実現せぬ“約束”も
■韓国のケース
日本と同じように処分場立地が難航した韓国は、日本に学び立地自治体に見返りで多額の交付金を出す公募方式に転換した。さらに住民投票の賛成率で応募自治体を競わせ、05年11月に慶州(キョンジュ)市に立地が決まった。今度は日本側が「韓国に学べ」と手法に注目する。
ただ、昨年11月に訪ねた慶州が直面していたのは、行政・電力会社が投票前に約束した地域振興策の大半が実現しない厳しい現実だった。推進派は焦燥感が漂っていた。
慶州を案内してくれた韓国人女性と岡山の集会で再会した。彼女は言った。「手遅れにならないうちに韓国で起きていることを日本に伝えたい」 <今回の担当は横田信行記者:>
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■ことば |
◆原子力発電環境整備機構
「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」施行を受け、高レベル放射性廃棄物処分のため電力業界などが00年10月に設立した組織。日本銀行などと同じ国の認可法人。処分場建設地の選定、処分場の建設・管理、処分場の閉鎖後の管理などが業務。建設地選定は(1)文献資料などで概要調査地区の選定(2)ボーリング調査などで精密調査地区の選定(3)地下施設での調査などで2020年代後半をめどに建設地の選定。30年代後半の処分開始を目指す。 |
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